単身赴任してしばらく経った頃、DLでもBLでもいい、機関車の走っている軌道が無性に撮りたくて、カントクが消えて手軽に撮影できる対象がなくなって、燃え尽き症候群のような脱力感でしばらくカメラを持つこともなくなってしまった。そんな怠惰な時間がどのくらい流れただろう。
日本陶石鉱山の採掘開始の出会いはそんな機関車の呪縛を解いてくれたのだ。プリミティブな軌道の光景はつまらないこだわりの向こう側を教えてくれる。トロッコがあって係わる様々な人間がいて、ちょっと昭和30年代の雰囲気が残る、それだけでいいじゃあないか。そう思うだけで楽しく撮れる軌道のなんて多いことか。春先のうきうきした陽気に誘われて、いつか訪ねてみたいと思っていた岐阜県周辺のトロッコを訪ねたのだった。
最初に訪ねたのは、八百津にある味噌平醸造という、一目で相当の歴史を持つことがうかがえる醸造所。381mmという狭いゲージの軌道が使われていた。地図をにらみながらようやくたどり着いたときにはすでに昼前。途中何カ所かのネタをこなしてきていたから仕方がないのであるが、操業は早朝のため工場内は静まりかえっている。幸い事務所に従業員の方がいて、来意を告げると快く撮影を許可して下さった。
創業130年の風格が感じられる入り口。ちょっと新しめの看板が残念。
トロッコは現役で支線の先に留め置かれていた。支線を含めた路線延長は50mほどはあるだろうか、この手の軌道としてはまあまあの長さ。入り口付近に分岐が一箇所あり軌道は二手に分れているが、一方は5mほどですぐに終点。もう一方は奥の醸造工程の方に伸びている.
玄関には小さな赤いポストとちょろりと顔を覗かせたレール、古いガラス戸。一体いつから変わっていないのだろう。黄色のプラケースがなければとても平成年間とは思えない情景だ。
工場内にはいると醤油や味噌のもろみの匂いが充満している。早朝の操業時には湯気なども立ちこめたりしているのではないだろうか。是非一度見学してみたい。