その日の朝は4時半に起床、このときのためにスポーツショップで購入した簡易アイゼンを上着のポケットに大事にしまう。これが文字通りの守り神。
いつものように登山弁当を調達して荒川へ。
登山口についてもまだ5時だから当然周囲は漆黒の闇である。弁当をかき込んだあと杠が先頭になって早速出発。ちなみに彼のヘッデンは電池が切れて満足に点灯しない。私が後ろから照らす懐中電灯の明かりだけが頼りのはずだが、あろうことか競歩のようなペースで歩みは進む。きっとオメガループを夢見て、体中をアドレナリンが駆けめぐっているのだろう。神速とはこのことだと思った。
やがて小杉谷線との分岐点に辿り着く。ここで満を持して取り出した簡易アイゼンの装着だ。昨日の試運転の結果も良好だったからここまで不安はない。メンバーも滑る枕木に手を焼いて、地元のスポーツ店で同様の滑り止めを調達していて、各々装着した足下を確認している。

しかしアドレナリンは彼だけでなく私の体の中も駆けめぐっていたのだろう、いつもより強くゴムを引いて登山靴にアイゼンを止めたその時、「ブチン」という音と共に金具が消し飛んだのだ。いつもオレは肝心なときにこうだ・・・
守り神を失っても、とにかく行けるところまで行くしかなかった。最初の鉄橋で弱音を吐いた筆者に手を差し伸べてくれたのは小林氏。「そんなこと言わず一緒に撮ろう」
おそらく自分ではこうも人に温かく接することは出来ないだろう。そんな自分の弱さを痛感しながら、手を引かれて真っ暗闇の鉄橋をひとつひとつ渡っていったのだ。今更ながらに感謝の言葉もない。